渡邊 寛恵

Hiroe Watanabe

公益社団法人 塩釜青年会議所 第49代理事長

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勇往邁進

未来を切り拓く挑戦者であれ

 第二次世界大戦終結から4年後の1949年、まちや経済、そして人々の心が未だ戦争の傷から癒えぬ中、「新日本の再建は我々青年の仕事である」と志した青年達により、日本の青年会議所運動が始まりました。私達塩釜青年会議所は「市民の共感を求めて、明るく、豊かな、住みよい地域社会作り」を目的に1975年に日本で594番目の青年会議所として設立され、今年で49年目を迎えます。49年もの間、先輩方は常にまちを想い、人を想い、妥協することなく明るい未来のために行動し続けてきました。先輩方から連綿と受け継がれてきたまちへの想いを胸に、私達は今年度も運動を展開して参ります。

はじめに

 私の故郷は横浜です。32歳の時に宮城県に移り住むまで、生まれた時からずっと横浜にいました。旅行が趣味だった私は全国各地を旅し、素晴らしい景色や文化に触れてきましたが、旅行が終わり、空港から横浜駅に向かうバスの中で感じることはいつも、なんて良いまちに生まれたのだろう、ということでした。バスの車窓を、たくさんの光の粒が流れては消えていきます。その光の一つひとつを形作っているのは、そこに住み暮らす人の日々の営みです。横浜には、幼いころから学んできた誇りある歴史があり、慣れ親しんだ景色があり、そして大切な家族や友人がいました。まちを愛するということは、そのまちのもつ歴史や文化を愛するというだけでなく、そのまちに住み暮らす人やそのまちを大切に想う人々を愛するということです。私はこのまちでたくさんの人と出会い、様々なまちの魅力に触れ感動を覚え、そしてこのまちで生きていくことを決めました。私は今、このまちを愛しています。

 2020年に塩釜青年会議所に入会してから、私は常に自分の限界に挑戦してきました。入会3ヶ月後、2021年度宮城ブロック協議会のみやぎJCアカデミー委員会総括幹事の役職を受け、LOMの理事会に出た経験すらないまま、正副会長役員予定者会議をオブザーブし、分からないことだらけの中走り続けました。何が得られるのか、報われるのかどうかも分らぬまま、ただ自分のできる最大限の努力を続けました。そこで手にしたものは、必死にやったからこそ得られた経験と、最後までやり遂げた自分への自信、そして、何にも替えられぬ友です。JCでは、たくさんの成長の機会が用意されています。しかし、用意されているのはあくまで機会であり、成長という成果を得られるのは、その機会に向き合い全力で挑戦した者のみです。私達が大小の挑戦を続け、成長をし続けることで、この塩釜青年会議所はより良い組織となり、私達が想うこのまちも、必ず希望に満ちたより良いまちになると信じています。皆で挑戦を続け、そして未来を切り拓いていきましょう。

青年会議所の理念の浸透

 昨年度多くの新入会員に入会いただいたことにより、塩釜青年会議所は正会員の約3分の1が入会2年目の会員という状況となりました。会員の入会目的は人それぞれであり、どれが正しいというものではありませんが、入会しただけ、漫然と例会や事業に参加しただけ、楽しんだだけで満足してしまうことは、非常にもったいないことです。

 青年会議所の理念はJCI CreedやJCI Vision、JCI Mission等、セレモニーに表現されています。これらを通し、一人ひとりが、青年会議所がどのような場所なのかを考え、自分の中に落とし込み、そしてそれを体現していきましょう。私達が理想とする「明るい豊かな社会」は、会員一人ひとりの自己研鑽と成長によって実現に近づきます。私は、自己研鑽と成長の機会を提供し、40歳という卒業の歳を迎えた後も、地域や世界で活躍できる人財を育てる場が青年会議所であると考えています。人は人によって磨かれます。職業や性別、人種や宗教による制限がなく、多種多様な属性の人が集まっているからこそ、多くの価値観に触れ、自らの視野が広がり、より良い自分になれるのです。また、人が大きな力を発揮できるのは自分以外の誰かのために何かを行う時です。仲間のために、人のために、そのような気持ちが自らを鼓舞し、想定していた限界以上の力を発揮することができます。青年会議所には、会員が成長するための仕組みがあります。その仕組みを活かすために目の前にある機会に対して積極的に行動することが、青年会議所の理念を体現することであり、より良い自分と自身の目的達成に繋がるのです。事業や例会に積極的に参加するだけでなく、そこから一つでも多くのことを学び、より良い自分となり、より良い社会としていくために学んだことを活かしていく、そのような目的意識をもって取り組んでいきましょう。

 また、提供する側としても、様々な属性の会員がいることを考慮し、可能な限り多くの会員に、多くの機会を提供できるように努めなければなりません。会員に機会を活かし挑戦することを求める以上、挑戦しやすい環境となるよう整備していくことが必要です。会員の良きターニングポイントを継続的に作り続けていきましょう。

 塩釜青年会議所は、今年で創立49年目となります。50年目の節目を前に、私達の活動がなぜ、何のために行われているのかを改めて考え、理解する必要があります。これからの私達がなすべきことを模索し、積極的に行動することが、青年会議所が理想として掲げる明るい豊かな社会の実現に繋がるからです。

一人ひとりが主役となれるまちづくり

 私達の活動エリアである二市三町は、地理的には近くにありながらも、独自の歴史や文化をもち、それぞれが異なる個性をもっています。陸奥国一之宮鹽竈神社の門前町として栄え、現在でも水産業の振興上特に重要な漁港であるとして特定第三種漁港に指定されている塩釜漁港を有する塩竈市、724年に陸奥国府がおかれ、古代東北の政治や文化の中心として栄えてきた多賀城市、三方を海に囲まれ、海に沿ってできた7つの集落があり、縄文時代から海と共に生きてきた七ヶ浜町、利府街道の宿場町として栄え、今なお3つの駅と4つのインターチェンジを有する交通の要衝である利府町、日本三景の一つに数えられ、仙台藩祖伊達政宗公の菩提寺である松島青龍山瑞巌円福禅寺をはじめ多くの国宝や文化財がある松島町。どの市町も世界に誇れる唯一無二の魅力をもっています。

 このまちの魅力を、そしてそれを作ってきた人々の想いを、このまちに住み暮らす人々は理解しているでしょうか。誇りや愛情をもっているでしょうか。まちを愛する人が多ければ多いほど、まちは良くなっていきます。道端に落ちているごみを拾うことも、まちづくりの一つです。自分の住み暮らすまちのことを、当事者意識をもって考え、少しでも良くしようと行動を起こすことがまちづくりの原点だからです。一人ひとりがまちを愛し、まちづくりの主役となれるまちを目指しましょう。

 私達が継続事業として取り組んでいる塩竈みなと祭も、毎年多くの人々を巻き込み、このまちの魅力を伝えてきました。このまちの魅力は何なのか、そして、何を繋ぎ、何を未来に残していくべきなのかを改めて考えましょう。毎年同じことを繰り返す必要はありません。今の時代や環境の変化に合ったより良いものへと進化させ、運動として、より大きな効果をもつものにしていきましょう。塩釜青年会議所には生まれた時から二市三町に住んでいる会員もいれば、別の地域から二市三町に移り住んできた会員や、職場が二市三町にある会員もいます。一つの視点からは見えづらくとも、様々な視点からであれば見えてくる良さもあるかもしれません。多様な会員がいる私達だからこそ、このまちの魅力をたくさん見つけることができるでしょう。そして見つけた魅力を更に良いものへと進化させ、内外へと伝えていくことが、私達の務めです。

自己と他者を肯定し、挑戦できるひとづくり

 未来を生きていく子ども達に、大人は何を願うでしょうか。私の願いは2つです。1つ目は、どこで何をしようとも、幸せに生きていてほしい。これが私の1番の願いです。では、子ども達が幸せに生きていくために、私達大人は何をしてあげられるのでしょうか。生きづらさを抱える人は、自己肯定感が低いと言われます。周りを見ても、自己肯定感の高い人の方が、自分だけでなく、相手の良いところを見つけ、日々に楽しみを見つけ、日常をいきいきと暮らしているように見えます。どんな状況にあっても、その状況を肯定的に受け止め、楽しみを見つけ出せれば、人は幸せに生きていけるのではないでしょうか。

 2つ目は、より良い自分になりたいと願い、挑戦を続ける人になってほしいということです。より良い自分になるために努力し、達成したとき、人は更に大きな幸せを得られます。未知のものに対して一歩踏み出すときにも、自己肯定感が必要となります。自分の可能性を信じることで人は何かに挑戦し、そしてたとえ挫けるようなことがあったとしても、次は大丈夫、大丈夫にしようと何度でも立ち上がり、目標に向かって進んでいけるのです。

 子ども達に影響を及ぼすのは、家庭、学校、そして社会です。子どもがいてもいなくても、私達大人には、次代を担う子ども達が幸せに生きられるように導いてあげる義務があります。自己肯定と他者肯定は表裏一体であり、肯定と否定というのもまた表裏一体です。私達大人がまず、自分に対しても他人に対しても、否定より肯定をすることを意識しましょう。自己肯定と他者肯定を実践していく背中を見せ、子ども達の幸せを願う大人として相応しい人になりましょう。

 また、年齢にかかわらず、何かに挑戦したい人に対し、挑戦の機会を提供することは、青年会議所の大切な役割です。何かをしたいと一歩踏み出し、まちのためにできることを必死に考え、多くの人と共に一人では成しえないことを成し遂げるといった経験を通し、人は挑戦する喜びや意義を感じることができます。私達は昨年度塩竈みなと祭サポーターズクラブを立ち上げ、多くの人々が呼び掛けに応じて集い、塩竈みなと祭運営のために尽力してくださいました。今年度は更に能動的なメンバーを増やし、将来的に私達の手を離れても持続可能な組織とすることを目指していきましょう。

組織とまちのブランディング

 塩釜青年会議所と聞いて、人々は何を思い浮かべるでしょうか。お祭りをやっている団体だと思っている人もいるでしょう。他団体と混同する人もいれば、そもそも知らない人もいるでしょう。私達公益社団法人塩釜青年会議所は、明るい豊かな社会の実現を理想とし、二市三町で活動している団体です。しかし、どんなに一生懸命に活動をしても、それが人々に届かなければ、人々の意識を変化させる運動は生まれません。より多くの人々に、私達の活動を伝えることが必要です。また、塩釜青年会議所がどんな団体であるかを伝えるのは、事業やSNSだけではありません。会員である私達一人ひとりの言動が、青年会議所のイメージを作り上げているのです。一人ひとりが自覚と責任をもって行動しましょう。そして自分の言葉で、青年会議所がどのような団体であるかを伝えましょう。私達が何を大切にし、何をしている団体なのかを人々に知っていただくことが、このまちの点と点を結び、人々や行政との懸け橋となり、二市三町一体となった地域ブランディングへと向かっていく鍵となります。

 前述の通り、この二市三町は、一つひとつが素晴らしい個性をもっていますが、それぞれに足りないところがあることもまた事実です。少子高齢化が問題視されてからかなりの年月が経ちましたが、これに対する解決策は未だなく、それぞれの自治体が抱える人的物的資源にも限界があるのが実情です。しかし、地域ブランディングは一つの自治体のみで行う必要はありません。二市三町が手を携え、それぞれの個性を尊重し、それぞれが現在まで誇りをもって紡いできた歴史や文化を大切にし合い、足りないところを補完し合いながら、このまちをブランディングし、持続可能なまちを目指していきましょう。

 多賀城は今年で創建1300年を迎えます。多賀城は東北の安寧を願って作られた城であり、宮城県という県名の由来になったと言われています。創建以来、永きにわたり宮城だけでなく東北の発展を支えてきました。今年の公開に合わせ、多賀城の入口にあたる重要な施設である南門も復元中です。大きな節目を迎える年だからこそ、今一度このまちの歴史を振り返り、多賀城市民のみならず周囲の市町に住み暮らす人も巻き込み、人々の気持ちを一つにして、その魅力を内外へ発信していきましょう。

誠実で公正な組織運営

 塩釜青年会議所は、2013年に公益法人格を取得しました。公益法人格を維持するには、法人として支出する費用の50%以上を、公益を目的とする事業に使用する必要があります。10年にわたり公益法人格を維持しているということは、私達が理想として掲げる、明るい豊かな社会の実現のための事業を行っている証でもあります。公益法人として、そして、品位ある青年の団体としての社会的責任を果たし、引き続きまちの人々に信頼を寄せていただくためにも、会員全員がコンプライアンスを遵守する意識をもつ必要があります。SNSの普及により、何気ない行動が多くの人の目に触れる可能性をもつ時代になりました。ひとたび誰かが信頼を失うような行為をすれば、先輩方が長年かけて築き上げてきた、この塩釜青年会議所への信頼を一気に失う恐れもあります。法令や定款、規程に則った組織運営を行うのはもちろんのこと、一人ひとりが大人としての倫理観と責任感をもち、公益社団法人である塩釜青年会議所の一員として恥ずかしくない言動をとりましょう。

 また、塩釜青年会議所の活動は、会員だけでなく、特別会員や賛助会員をはじめ、私達の運動を支援してくださる多くの皆様からの会費や寄付、協賛金によって成り立っています。それらは私達を信頼して預けていただいている貴重な財産であり、無駄なく効率的に使用する義務があります。今後も公正かつ透明な財務管理を行っていきましょう。

多くの仲間と共に

 青年会議所の設立以来、時代の変化に関わらず絶えず続いている運動が会員拡大運動です。私達は40歳を迎える年をもって卒業し、残された会員に未来を託さなければなりません。誰かがするはずだと他人事として捉え、会員拡大の努力を怠れば、会員数は減少し活動が困難となり、やがて塩釜青年会議所自体が消滅する恐れもあります。このまちを想い、このまちのために行動できる人財が一人でも増えることが、このまちの未来に繋がります。また、多種多様な人が青年会議所に集まっているからこそ、物事を様々な角度から見ることができ、時代の流れや人々の要望を敏感に察知できるのです。多くの会員を迎え入れることは、視点が更に増え、より良い運動を展開することに繋がります。

 会員一丸となって、新たな仲間を迎え入れましょう。自分達の活動に自信と誇りをもち、自らの言葉で、自らの経験ととともに青年会議所の良さを語れるようになることが必要です。会員一人ひとりが塩釜青年会議所の一員であることに誇りをもち、常にその自覚をもって行動し、そして、人々に憧れられるような人財になることが、会員拡大運動の第一歩です。

より広い世界へ

 青年会議所は国際的な組織です。この二市三町のみならず、宮城ブロック協議会、東北地区協議会、日本青年会議所、国際青年会議所と、世界は広がっています。私も宮城ブロック、東北地区、日本と出向をし、都度真剣に向き合い、日本中にたくさんの仲間ができました。挑戦する気持ちさえあれば誰でも、より広い世界の仲間達に出会うことができます。日常を暮らす中では決して交わることはなかったであろう人達に、出向をすれば出会えるのです。別の地域で志を高くもって頑張っている仲間と出会い、切磋琢磨することは、青年会議所だからこそできることだと私は思います。自分達の当たり前が当たり前でないことを知るのもまた出向の良さです。人に個性があるように、LOMや県、地区にも個性があります。多種多様な人に触れ、視野が広がることで、今までの選択肢に新たな選択肢が加わります。現役時代だけでなく、卒業した後も必ず自らの糧となります。より広い世界への一歩を踏み出してみましょう。

 また、出向の他に青年会議所の規模の大きさを感じられるのが、ブロック大会や東北青年フォーラム、京都会議、サマーコンファレンス、全国大会、ASPAC、世界会議といった各種大会、会議です。単体のLOMの規模では開催できないような会場やゲストで開催され、全国から会員が集まります。普段の仲間と共に、普段と違う場所で普段とは違う規模の事業に参加し、感動を共有することは、自分自身にとっての良い経験になるとともに、参加した会員同士の絆も深まります。また、規模が異なるだけで、運営をしている一人ひとりは私達と同じ、青年会議所の一会員です。自分達の事業の参考にすることもできるでしょうし、登壇者に憧れを抱くことで、出向への足掛かりとなることもあるでしょう。気軽に広い世界に触れられる一方で、大きな転機となる可能性も秘めているのが各種大会や会議です。新たな挑戦の一つとして、今まで知らなかった世界を知ってみましょう。

共に挑戦を

 塩釜青年会議所には、長きにわたり交流し、切磋琢磨してきたLOMがあります。助け合ったり、懇親を深めながら共に学び合ったりといった関係を築いてきました。先輩方の温めてきた友情を受け継ぎ、より深い絆とすべく、今年度も交流を続けていきましょう。

 また、この二市三町には私達の他にも、まちをより良くすることを願い、まちのために活動するたくさんの団体があります。地方自治体や市民団体等、規模や性質に関わらず、まちを想う同志として積極的に関わっていきましょう。共にできることを模索し、互いにより良い関係となれるよう、共に様々な挑戦をしていきましょう。

未来に向けて

 塩釜青年会議所は、2025年に50周年の節目を迎えます。私達は、創立40周年運動指針「希望に満ちた二市三町(ふるさと)の創造へ ~地域を輝かせるためにかつてない未来を切り拓く~」に基づき運動を展開してきました。この10年間でどのくらいのことが達成できたでしょうか。そして、次の10年間で目指すべきことは何でしょうか。変えてはいけない大切なものは何なのか、変えるべきものは何なのか、私達は40周年代の集大成として、この10年間を検証し、現状を捉え、そして次の10年へとバトンを繋ぐ必要があります。

むすびに

"Where there is a will, there is a way"

「意志あるところに道は開ける」

どんなに辛く困難であっても、無理だと決めつけることなく自分を信じて努力を続ければ、きっと道が開けます。そしてその先には、明るく豊かな未来が待っているのです。

自分のために、まちのために、誰かのために、自分を信じて挑戦し続けましょう。

 未来を切り拓く挑戦者であれ。